昔は窯場の職人のことを「窯ぐれ」と言った。全国の窯場を渡り歩き、今、尚、陶工、原料屋として、昔ながらの窯場の知識、技術を唯一引き継ぐ小川哲央の随筆をお楽しみ下さい。 (2012年3月改訂しました)


by ogawagama

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105 マニュアル

 火を相手にするのは魔女を相手にするようなもの。と唐九郎は言った。

 しかし今は誰もが窯焚きではデーターと温度計とのにらめっこ。最近では薪窯用のコンピューター制御の温度計もあり、音声付きで焚べるタイミングになると「薪を10本御入れ下さい」等と丁寧に女性の声で教えてくれるのだが、私はあくまで窯の声を聞いて判断したい。

 特に1200℃を超えると、15分毎10本づつなんてデーター通りにくべてはいられない。上がる時に上げておかないといけないし、逆にどうしても上がらない時は待つしかない。
 薪がまだ燃えているというのに、時間だからといって、マニュアル通りに薪を入れていては、火の勢いが落ちてしまうだけです。
 時間でも薪の本数でもなく、窯焚きのコツは、「上がる時に上げ、待つ時には待て。」

 窯焚きにも、ある程度のマニュアルはありますが、これより大事なのはリズムに乗ることです。
 リズムとは、全ての環境条件、天候・風・湿度・月の引力・窯づめ・薪の状態等を考えて窯焚きをするということ。まさに勘の世界。

 例えば、前回は15分毎10本だったからと言っても、「今宵は大潮月の引力が強く、天気も快晴でとても引きが良く、その上薪にはヤニがたっぷり入り、いつもより太い。」これなのにいつも通りくべていては、一気に温度が上がり、作品は煎餅のようにブクブクとなってしまうことでしょう。

 窯焚きは常に状況に応じて変えていかなければなりません。
 ここが面白くもあり難しいところでもあり、まさしく唐九郎が言うように魔女です。
 魔女はマニュアル通り焚いても、名作を与えてくれません。しかしマニュアルは捨て、毎回無心となって窯の声を聞いて焚いていけば、時々は名作を与えてくれましょう。

 魔女からのプレゼントです。
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by ogawagama | 2012-03-07 23:04 | 105 マニュアル