昔は窯場の職人のことを「窯ぐれ」と言った。全国の窯場を渡り歩き、今、尚、陶工、原料屋として、昔ながらの窯場の知識、技術を唯一引き継ぐ小川哲央の随筆をお楽しみ下さい。 (2012年3月改訂しました)


by ogawagama

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124 備前の粘土

 土と炎の芸術といわれる備前焼。

 土を焼き締めるだけの焼き物は、常滑・伊賀・信楽・丹波・珠洲・渥美等にもあるが、各産地は現在焼き締めを焼いている作家はそれぞれ十数人程、しかし備前には300人以上もいるのだが、どうしてであろうか。
 他にはない独特の土にその答えが見つかりそうである。

 伊部の田土が使われているのだが、これは熊山から流れ出た土が、150万年かけて分解熟成され、まるで羊羹のようにねっとり黒褐色の粘土になったもの。

 この粘土は、耐火度が低く割れやすい為、他の産地より時間をかけてゆっくり焼くしかなかった。
 室町から桃山にかけて他の産地は、時代の要請により施釉陶に移っていくのだが、備前の土には釉薬がのらず施釉陶は無理であった。
 こうして時代に取り残されてしまうのだが、しかしこれがかえって良かった。

 その後、その素朴さが茶人たちの眼に叶い、改めて見直されていくことになる。

 なぜ、この田土が良いのか探ってみると・・・。

 田んぼは、田植えの春から収穫の秋まで水が蓄えられ、その後水を抜かれ太陽に晒される。この為水を好む微生物と好まない微生物が交互に繁殖して、他の土より、より粘りが生じているようだ。
 スプーン一杯の土の中に微生物が一般の粘土には1500万匹、これに対し備前田土には1億5000万匹もが住みついていると言う。
 更にこの土を寝かすと、80種類以上の酵母が生まれ、その大半は何と抗生物質のペニシリンだそうです。
 昔から、傷をしたら土を塗れと備前では言われていたそうですが、まさに薬となるくらい発酵している良い土だったのです。

 備前ではこの土の良さを十分に分かっており、粘土を生きたまま使っています。
 他の産地では当然のように使われている真空土練機を使わず、昔ながらに採ってきた粘土に水を加えて土踏みをして、3年以上寝かしてから使っているのです。
 こうした努力もあって、備前粘土はどこよりも粘りがあり、まるでゴムのように良く伸び、作家の思いが伝わり易いものになっていたのです。

 備前では「土に素直に」とよく言われますが、これは粘土作りや、形を作る際のことも言うのですが、それと共に、焼く時も土の個性を生かしなさいとの古くからの教え。
 この教えを大切に引継いで、昔ながらの変わらない備前が今も続き、多くのファンを獲得しているようです。
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by ogawagama | 2012-03-08 23:28 | 124 備前の粘土