昔は窯場の職人のことを「窯ぐれ」と言った。全国の窯場を渡り歩き、今、尚、陶工、原料屋として、昔ながらの窯場の知識、技術を唯一引き継ぐ小川哲央の随筆をお楽しみ下さい。 (2012年3月改訂しました)


by ogawagama

カテゴリ:128 緋だすきを科学する( 1 )

 緋だすきは、備前焼において、大きな作品の中の空間がもったいない為、この中にも小さな作品を入れて焼こうとした際、そのまま入れてはくっついてしまうので、耐火度の高い藁を間に挟んだり巻いたりした為に生まれた模様のことです。

 備前の土に直接炎が当たると、いわゆる茶~シソ色に焼き上がるのですが、大きな器の中に入れると直接炎が当たらず蒸し焼きになり、素地全体の色は薄い肌色に焼き上がり、藁を巻いた部分だけが、赤く模様となります。この赤色を昔は緋色と言い、藁をたすきに巻くことが多かったので、「緋だすき」と命名されたようです。

 さて、どうして藁を巻くと赤くなるのかをここで科学したい。

 備前の土には2.5%の鉄分が入っています。この土を1250℃で普通に焼くと、鉄分が溶けた形のムライトになるのだが、ここに藁を巻くと、藁の主成分はケイ素と塩化カリウム。
 600℃程で備前土の鉄分と藁の塩化カリウムが反応し合い、ヘマタイトという新たな結晶鉱物を作り出す。
 これが温度を上げていくと、だんだん増えていき800℃でピークとなる。
 しかし1000℃からは減り始め、1200℃で消えてしまう。
 これを急冷させては消えたままなのだが、徐冷つまり1時間に30℃~12℃でゆっくり冷ましていくと、1100℃~1050℃辺りで、再びヘマタイトが現れてくる。
 このヘマタイトこそが赤色の正体。
 電子顕微鏡で見ると、このヘマタイトの結晶がはっきり確認出来ます。

 ちなみにゆっくり冷ますとヘマタイトの結晶が小さく暗赤色。かなりゆっくり冷ますと結晶が大きく成長して黄赤色になります。

 これが緋だすきの科学的解明です。

 実際、私も研究しましたが、粘土に鉄分が2~3%入っていないと緋が出ませんし、いくら備前土を使っても急冷させては緋が出ません。
 但し、備前の粘土でなくても鉄分が2.5%程入っていれば、どんな粘土でも構いませんし、実際の藁でなくてもよく、塩化カリウムをアルコールで溶いたものを直接塗っても緋は出ます。

 このような理論を知って焼くのと、知らずに焼くことには大きな違いがあると思っています。
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by ogawagama | 2012-03-08 23:57 | 128 緋だすきを科学する