昔は窯場の職人のことを「窯ぐれ」と言った。全国の窯場を渡り歩き、今、尚、陶工、原料屋として、昔ながらの窯場の知識、技術を唯一引き継ぐ小川哲央の随筆をお楽しみ下さい。 (2012年3月改訂しました)


by ogawagama

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23 薪窯焚き

「三日三晩焚き続けても、一向に温度が上がらない。
意識がもうろうとなった豊蔵は、とうとう倒れ込んでしまう。
もうこのまま死ぬのかと思ったと、息子の武夫に背負われて山を下り、陶房の居間で寝かされた。
誰かが医者へ走った。
近所の人は、親が危篤だというのに窯を焚いている、本当の親子ではないのかと皆が言い出した。
しかし武夫は違った。
何としても、父親の為に焚き上げなければならないと、寝ずに、更に一晩、窯を一人で焚き続けた。」

 荒川豊蔵父子の窯焚きを書いた本の一部ですが、温度の上がりの悪い窯を焚いた人、台風が来ても焚き続けた人等は、心から分かると思うが、本来の窯焚きはこういったもの。    
 
 一度窯に火を入れたら、親の死に目にも会えないものです。実際に、10年程前の窯焚きの手伝い中、窯主の親が亡くなりましたが、窯はそのまま焚き続けられ、窯主の眼には涙があふれていました。

 陶芸の仕事は禅僧の修行と同じではないでしょうか。作陶においても、土を練る、ロクロを回す、窯を焚く、全ての過程で私心をなくし、無心にならなければならない。作意が入っては、決して、人の心を打つ作品にはならない。
 
 私も、年に4~10回の窯焚きをしますが、決して楽ではありません。特に後半、肉体疲労のピーク時は、「命を込める思いでした仕事は、必ずプラスアルファの何かを生み出す」の言葉を念じ続け、何とか焚き続けているだけです。焚き終わって、3日寝続けたこともあります。この時の作品が最も良かったかな...。
 
 窯焚きは不思議と、きつければきつい程、作品の焼き上がりは良くなるものです。
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                       「薪窯焚き」
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by ogawagama | 2008-12-19 16:18 | 23 薪窯焚き