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昔は窯場の職人のことを「窯ぐれ」と言った。全国の窯場を渡り歩き、今、尚、陶工、原料屋として、昔ながらの窯場の知識、技術を唯一引き継ぐ小川哲央の随筆をお楽しみ下さい。 (2012年3月改訂しました)


by ogawagama

5 ある茶人

 ある茶席での陶工と茶人の会話。

「茶碗は、陶工のつくったものなど使えません。高尚な茶人が手びねりでつくったものでないといけません」
「それでは最も優れた茶碗は」
「高麗茶碗です」
「高麗茶碗は、昔の名もない朝鮮の陶工がつくったものですが」
「高麗は別だ」
「茶の最高の点前は唐物立て。そこで使う天目茶碗も茶人のつくったものではないですが」
「朝鮮や中国は日本よりも国が上だから、陶工のものでもさしつかえない」
「では、志野、黄瀬戸、織部、萩、唐津、これも茶人の手びねりとは思えませんが」
「それらは古いものだから、さしつかえない。新しい陶工のつくったものがだめと言っておる」
「それでは、利休は陶工につくらせ新しいものを使っていましたが茶を知らないのでしょうか」
「利休だけは違う」
「古田織部も新しい茶器で茶会を開いていますが」
「織部だけは違う」
「小堀遠州も新しい茶碗を使っていますが」
「遠州だけは違う。昔のことだから良いのであって、今の人が新しい陶工の茶碗を使うなど、お茶を知らない素人だ」
と、茶席を出て行ってしまいました。これは実話です。

 唐物茶入や天目茶碗が日本のやきものより上だとか、高麗茶碗に日本の茶碗は劣るとか、そろそろ古い考えを捨て、公平な眼でやきものを見て頂きたい。
 現代の陶工の中にも、作品に命を込める思いでつくっている人は何人もいます。
by ogawagama | 2008-12-04 19:28 | 5 ある茶人