114 漆黒の瀬戸黒
2012年 03月 08日
志野などは、窯の火を止めてから三昼夜も地団駄を踏んで、待って、窯出ししてからしか、その出来具合が分からない。
それに比べ瀬戸黒は、ふつうなら茶褐色に焼き上がるものを、窯焚きの最中熱いまま、窯の中から鉄ばさみで引き出し、水の中に放り込む為に生まれるやきものであり、その焼け具合はすぐその場で見て取れる。
タイミングが早ければ、釉がちぢれ、かいらぎ状に。
ベストなら無限に広がる漆黒色。
少し遅いと、灰がたっぷり被った窯変模様になる。
調合の割合は、鬼板と呼ばれる褐鉄鉱7割、灰を3割。
1150℃という高温の窯から、いきなり引き出され、冬なら0℃近い水の中に放り込まれるのは、温度に敏感な性質を生かし、「志野の色見」として使われていたからであろう。
その証拠に、茶碗の底に穴を開け、引っかけ易いようにした黒い茶碗が、物原(モノハラ)と言われる、窯の近くの割れたもの捨て場から、いくつも見付けられている。
桃山の陶片を調べると、一番量が多いのが、この黒の陶片というのも、その証拠である。
つまり、実際の茶碗の火前、火後ろ、見込み、ひっくり返して底まで、しっかり溶け具合を見て、温度計の無い時代は、陶工が窯の火止めを判断していたのでしょう。
利休はこの黒茶碗を、とても寵愛していました。
「侘茶には黒がよい。草庵によく合う。この漆黒色こそ、最も品格の高い色である。」と。
私も冬は瀬戸黒で茶を飲むことが多い。