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昔は窯場の職人のことを「窯ぐれ」と言った。全国の窯場を渡り歩き、今、尚、陶工、原料屋として、昔ながらの窯場の知識、技術を唯一引き継ぐ小川哲央の随筆をお楽しみ下さい。 (2012年3月改訂しました)


by ogawagama

84 窯焚き風景

 小川窯では年4回。幅2・5m、長さ9mの割竹式登り窯を、最終日に一人助っ人を頼みますが、基本一人で焚き上げています。

 どうして一人で焚くのか。
 その答えは、静かに集中して焚きたいからです。

 窯の声を聞いていると言うと、誰もがまさか・・と思うでしょうが、本当なのです。
しかし、ずっと会話をしているわけではありません。窯の声を聞こうと五感を研ぎ澄まして焚いていると、時々教えて貰えるだけです。

 例えば薪をくべるタイミング、小川窯には温度計がありません。静かに薪が燃える音を聞いていると、パチパチ燃え始めた音がだんだん大きくなり次第に小さくなり止まる。するとこれが次の薪をくべるタイミングなのです。そして最後に火を止める判断も、色見や中の作品からもわかりますが、窯がもうあと一くべとか。止めようとした途端もっと焚いてとか、何度も窯に教えて貰っています。

 これは一人で静かに焚いているから気付けることだと思う。

 特に夜は裸電球が2つしかありません。大自然の中この薄暗い場所に一人でいることを、とても心地よく感じています。昔の家屋は薄暗かったもの。現代の優れた電気類はどうも明るすぎて眼も心も疲れさせているようで。それがこの薄暗い窯場に一人でいると、最初は心細く寂しさも感じますが、だんだん心地よくなってきます。人間も本来動物、どうも明るすぎる場所や、音が多すぎる環境はストレスを与えているようで。一人の窯焚きは肉体的には辛いものですが、精神的にはとても心穏やかになれるものです。

 84 窯焚き風景_c0180774_17244626.jpgそして五感が研ぎ澄まされてくると、食事の方も変わってきます。
普段は何でも食べるのですが、この窯場に入ってからは、段々味の濃すぎるものはダメになってきますし、特に喉を通らなくなるのが、化学調味料・保存料等が入ったもの。私はちょっと濃い目の天然塩のおにぎりと果物が一番です。
 飲み物は冷たいものはダメ。温かい白湯が宜しいようで。不思議でしょ・・体も段々素直になってくるようです。

 窯焚き中熱くて、冷たいものをガブガブ飲んだら必ずバテてしまいます。適度な塩分補給と冷たいものを呑まないことに気を付けて下さい。
by ogawagama | 2012-03-07 11:56 | 84 窯焚き風景