昔は窯場の職人のことを「窯ぐれ」と言った。全国の窯場を渡り歩き、今、尚、陶工、原料屋として、昔ながらの窯場の知識、技術を唯一引き継ぐ小川哲央の随筆をお楽しみ下さい。 (2012年3月改訂しました)


by ogawagama

87 焼成中の注意事項

 どこにでもあるような石や土を使って形を作り、窯で焼かれたものが焼きもの。

 さて焼成中、石や土にどんな変化が起こっているのでしょう。そして何に気を付ければ良いのでしょうか。

 粘土にはどんなに乾燥させても、3パーセント程の水分が必ず残っています。この水分は100℃を超えると水蒸気に変わり蒸発していくのですが、この際の急激な膨張によって作品が割れることがとても多いので、とにかくゆっくり温度を上げて下さい。しかし温度計が100℃であっても、土の中は温度計が示す温度よりかなり低いので、100℃から300℃までをゆっくり上げること、これが第1のポイントです。

 次に注意したいのが粘土中の主成分珪石の膨張です。
 粘土中には50%程の珪石が含まれています。この珪石は573℃で急激に膨張する性質を持っているので、この数字をしっかり覚えておいて下さい。ここをゆっくり上げるのが第2のポイント。

 これを超え900℃までに、ゆっくり粘土は固まっていくのですが、この900℃まではしっかり酸素を送る焚き方をするのが第3のポイント。

 粘土中にはたくさんの炭素・有機物が入っています、これを閉じ込めない為には、とにかく酸素をたくさん送り込むことです。特にキメの細かい粘土は、うまくガス抜きが出来ないと、ブクブクの煎餅のようになってしまいますので慎重に。

 続いて900度からは釉薬に影響が出始めますので、酸化の場合は酸化炎に、還元の場合は還元炎にします。1100℃辺りで釉薬が溶けますが、溶け切ってしまうと釉薬の内部まではその雰囲気が届かなくなるので、初めに酸化・還元を強くかけておくことが第4のポイントです。

 そして1150℃を超えてしまうと還元反応も酸化反応も起こりづらくなるので、ここからは焼成効率の良い焚き方に切り替えます。こうして1250℃辺りで素地が焼き締まり、釉薬は良く溶け素地土と反応し合い、中間層を作り完成します。ねらしを長くするとその分中間層が増え、やきものの強度が増しますので、なるべく手を抜かずねらしを長くするのが第5のポイントでしょう。

 ここからは冷却になりますが、溶けた釉薬は1150℃辺りで再び固まり始めます。従ってこの温度辺りをゆっくり冷ますことで結晶が大きくなりますので、結晶釉はここの温度管理が第6のポイント。

 釉薬は900℃までで固まっていきますが、原子レベルではまだまだ活発に釉中を動いていますので、結晶釉・乳濁釉・失透釉はここまでを気をつけて下さい。逆に透明釉はここまでを急冷する事が第7のポイントです。

 最後に1つ。冷め割れについても触れておきます。これは粘土の中にクリストパライトが多く含まれている場合、起こり易い現象です。そんな土を使っている場合は240℃辺りでかなり急激に膨張・収縮しますので、とにかく窯出しを焦らずにやって下さい。

 このようにたった数時間の間に、土や石にはいろんなことが起きているのです。知り始めると面白いものでしょ。
[PR]
by ogawagama | 2012-03-07 17:39 | 87 焼成中の注意事項