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昔は窯場の職人のことを「窯ぐれ」と言った。全国の窯場を渡り歩き、今、尚、陶工、原料屋として、昔ながらの窯場の知識、技術を唯一引き継ぐ小川哲央の随筆をお楽しみ下さい。 (2012年3月改訂しました)


by ogawagama

122 越前焼

 中世六古窯といえば、備前・丹波・信楽・常滑・瀬戸そして越前。
 それぞれに特徴があるが、私が好きなのは越前。どうしてか。

1.冬になると、深い雪に埋もれる豪雪地帯。焼き物はそれぞれの風土性を背負うもの。
厳しい環境で作られたその姿は凛として威風堂々。

2.中世六古窯は、どこもが初めは、日常雑器からのスタートであった。
その後時代の要請により、茶器の生産や、釉薬物に移行していくのだが、越前だけは変わらず、種壷・肥え甕等の農作業容器、骨壷・擂り鉢・保存用甕等の生活用品だけをかたくなに変えずに作り続けてきた。

3.越前焼のライバルは常滑焼。一見似ているのだが、大きく違うのは粘土が赤土ではなく、50℃程耐火度が高い白土を使っている点。
つまり高温で長く焼いている為、丈夫で力強く、色の幅があり景色に深みがある。

4.赤松が手に入りにくい為、堅木を燃料としている。
松灰のように軽くふわっと上に上がりづらく、灰が重く作品の正面に激しくぶつかる為、自然釉がダイナミック。

等、私にとっては魅力たっぷりの越前焼なのだが、雪国というハンディと、世の中の需要の変化の為に、衰退の一途を辿る運命となる。

 しかし昭和45年、越前陶芸村の建設を機に、再び注目を集めることになった。メインの福井陶芸館に集められた平安・鎌倉・室町・桃山・江戸までの壷・甕たちは、どれもが素朴でありながら、凛として力強く、美しい。
 是非、雪の季節に見に行って貰いたい。

 その際、越前ならではの職人技も見て来て欲しい。

「ねじたて技法」
ロクロを使わず1メートル以上の壷・甕を、はがたなという独特の羽子板のような木コテを使い、見事に伸ばし上げながら作っていきます。
その作業に無駄がなく、使い勝手を考えなるべく薄く軽く作り上げていきます。

「ねじたてロクロ技法」
こちらの仕事は早く勢いがあり、見ていて圧巻です。
大きな擂り鉢を1日に200個以上あっという間に作ってしまうからです。作業に一切の無駄がなく、作業自体までもが美しく思えます。
 
 職人さんに話を聞くと、冬が長いから急いでいるのだと。
 どうも時間の節約からこのような神業が身に付いたようです。

 厳し環境の中で生きる逞しい職人たちが、無心で作る。
 皆が毎日使う日常雑器だからこその研ぎ澄まされたフォルム。
 重い灰の堅木で長く焼くからこそ生まれる独特な力強く深い自然釉。

 これらを併せ持つ越前焼、私はとても好きですね。
by ogawagama | 2012-03-08 23:16 | 122 越前焼