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昔は窯場の職人のことを「窯ぐれ」と言った。全国の窯場を渡り歩き、今、尚、陶工、原料屋として、昔ながらの窯場の知識、技術を唯一引き継ぐ小川哲央の随筆をお楽しみ下さい。 (2012年3月改訂しました)


by ogawagama

143 自然灰釉

 釉薬は、科学の力を借りれば、どんな色合い・雰囲気のものも作り出せてしまう現代に、あえて自然な釉薬を作り出したいと、独自の道を歩んでいる人がいる。
 北川八郎氏。
 私同様ちょっと変わった陶工である。
 
 春は菜の花を集め、夏にはひまわりの花を刈り取り、秋にはススキを集め、四季それぞれの色を器に移し取ろうとしている。

 人間一人ひとりに個性があるように、花や木や木の実、果物、野菜たちにも、さまざまな個性があり、それぞれが美しく深い独自の色合い、雰囲気を持っていると信じ、それぞれの個性を生かした灰作りを繰り返し、薪窯で優しく丁寧に焼き上げている。

 確かに、詩人の金子みすずも言っています、「みんな違って、みんないい・・」と。

 実際に彼は・・
木としては     栗 桜 梅 柿 杉 松
野の花としては   アザミ 菜の花 ススキ
野菜としては    トマト なす メロン
木の実としては   リンゴ 栗 柿 桃の実 梅の実
穀物としては    トウモロコシ 麦 小豆
その他       みかんの皮 柿の皮 栗の皮 イチョウ葉 ヨモギ葉 ワインの搾りかす

等あらゆることをやっています。

 但し、灰を作る作業はかなりの労力を要します。
 例えば灰がとれる量は木灰の場合、1tで1~3㎏つまり元の量の1000分の1~3しか取れません。
 アク抜きも1カ月程かかるし、乾かす作業も細かくする作業も全てが重労働である。
 しかしこれらの作業も友人・知人たちと楽しみながら行えば、いろんなものが周りからたくさん集まってくるでしょう。

 またこれらの灰はとてもデリケートで、薪窯で焼くと、まさに千変万化の色合い・雰囲気の焼き物になります。
 年によって、紅葉の美しい秋とそうでない秋があるように、自然灰釉は1200℃を越えたあたりから10℃段階で刻々と色が変わってしまうようで、二度と取れないものばかりとなるそうです。
 まさに自然がくれたプレゼントです。
 実際彼の作品はその人柄もあろうが優しく、温かく、手にした人たちからはとても落ち着くと言われたり、心安らぐとか・・。

 一般の陶芸家は、灰釉の材料は土灰・藁灰としか考えませんが、彼のように植物全てを相手にしてみても面白いじゃないですか。

 21世紀の陶芸界が目指すべき1つの道だと思います。
by ogawagama | 2012-03-09 15:53 | 143 自然灰釉