昔は窯場の職人のことを「窯ぐれ」と言った。全国の窯場を渡り歩き、今、尚、陶工、原料屋として、昔ながらの窯場の知識、技術を唯一引き継ぐ小川哲央の随筆をお楽しみ下さい。 (2012年3月改訂しました)


by ogawagama

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56 有限な土

 現在、日本の陶は世界一盛んです。でも、盛んになればなる程、一方で、「ひずみ」「衰え」が出てくるものです。
 今、自分だけやきものが出来れば良いと、どんどん作って、どんどん焼いて、気に入らないものはバンバン壊す。知らないうちにこんな姿勢になってはいないでしょうか。

 窯業地を回っていた修業時代(1993~1997年)、私は、精製された原料には興味がないので、いつも鉱山を回っていたのですが、
「この石はどれくらいあるのですか」
「もう10年もないよ」
「この土はまだあるのですか」
「いい所から掘っているから今買わないともうないよ」
 こんな答えばかりでした。

 あれから10年、とうとう日本の陶を支え続けてきた、伊賀、信楽、美濃、瀬戸でも、次々と鉱山の閉山が始まりました。悲しいことですが、これが現実です。
 
 我々は改めて、窯業原料は有限であることを考え、決して、無駄に使わず、陶芸というバトンを、必ず次の世代に渡さなければなりません。また、使い手側も、安いものをいい加減に使い、壊れたら捨てるのではなく、自分が気に入ったものを大切に使い、時に、継いで直して使うスタイルに変えてみてはいかがですか。子供たちもその姿を見ています。
 
 我が家の子供たちは私の器を使いますが、壊すことはありません。大切に扱ってくれます。プラスチック製のもの、量産の陶磁器は、まずいと言い、決して使おうとしません。子供は素直です。大人たちもぜひ見習ってみてはいかがですか。
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by ogawagama | 2008-12-27 11:22 | 56 有限な土

55 土の焼締

 「焼き締め(備前、信楽、伊賀等)には、何故か温もりを感じる」こう思っている人は案外多いでしょう。

 これは、土が発する3~6ミクロンの遠赤外線波長が、体内の細胞と共鳴し合う為です。この波長は、人間だけでなく、生命体全てに通じます。
 
 冷蔵庫がなかった時代、食料、水は、焼き締めのカメに保存されていました。こうすることによって、食料、水が、腐りづらいことを知っていたからでしょう。
 
 科学的に説明すると、物質が最もエネルギー授受の高い波長帯は、2.5~25ミクロン。土は永久的に3~6ミクロンの遠赤外線波長を出し続ける為、物質に、この熱エネルギーが伝わり、原子レベルでの振動が始まり、自らも、遠赤外線を発し始める。それを受けた別の物質も、振動を起こし・・・。このように共鳴振動がくり返し行われ、活性化されるという仕組みになっています。
 
 難しい話になりましたが、分かり易く言えば、焼き締めの器を使うと、ものが元気になるということです。
 
 私は、毎晩焼き締めの器で酒を呑みますが、2級酒が1級酒になります。焼き締めの花入に花を飾ると一般の花入より3倍は長持ちします。当然、料理も美味しくなります。分かり易いのは刺身です。次の日、ふつうの皿と焼き締めの皿では、傷み方が違います。
 
 陶磁器全てが遠赤外線を放射するのですが、中でも、素地が緻密である程、放射量が多くなります。従って、焼成温度が高い伊賀、焼成時間が長い備前のように素地がしっかり焼き締めてあるやきものが、最も良いという訳です。
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by ogawagama | 2008-12-27 11:03 | 55 土の焼締

54 土の尊厳

 「人を主とせず、自然を主とす」
 私の原料屋としての考え方の基本です。

 自然が何万年もの時間をかけて作り上げた原料そのものを尊重し、人間の側の都合で加工しない、自然の原料がもつ本来の美しさ、良さを引き出す方向での原料づくりをする。
 10%まぜれば、必ず10%の個性を失うもの。だから、つねに100%を生かす考えをあらゆる角度から試すこと。土でなければ化粧に、化粧でなければ釉薬に使えるはず...。

 名器は原料の個性を生かしきっているからこそ、人の心に何かを感じさせていると思います。
 各作家も、その土にしかない特徴を見出し、最大限に引き出すことを考えていただきたい。

 一つの土を、いろんなつくり方で粘土とし、(小川窯ではフルイだけでも、8目~200目まで、20種類を使い分けます。)いろんな手法で作品とし、いろんな温度で焼いてみる。しかし、実際の陶工は、ろくろ、絵付、窯焚き、展示会等、仕事が多く、「土までかまっていられない」と、後回しにしがちですが、それは、本末転倒というもの。まず、やきもののベースである土のことを知らなければ何も出来ないはずです。
 
 この土の研究は、追いかければ追かける程、複雑、難解なものですが、追いかけた分、必ず、良いやきものとなるものです。
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by ogawagama | 2008-12-27 10:31 | 54 土の尊厳

53 土の粒度

 地球には、地下500メートルより深いところに土はありません。それより下の圧力では石に変身し、更に深くは、マグマの状態でしかいられません。このマグマが、何らかの変動により押し上げられると、地表では間もなく石になります。この石が、日光、雨風にさらされ、風化していくと、次第に、白く、軽くなっていき、砂、粘土へと変化していく。これらはやがて、風や水に動かされて、川、湖、海へと移動していき、その厚みが500メートルを超えると、再び石となり、マグマとなる。何万年ものサイクルの中で。
 
 地質学上、土は6段階に分類されています。
れき2㎜以上
粗砂2㎜~0.42㎜
細砂0.42㎜~0.074㎜
シルト0.074㎜~0.005㎜
粘土0.005㎜~0.001㎜
コロイド0.001以下

 実際の自然界にある粘土は、例えば蛙目粘土。粘土分は20~40%程の為、水簸して、荒いれき、粗砂、細砂、シルトを取り除き、粘土分を70%以上に調整して使われています。つまり、山から採ってきて、そのまま使える粘土というものは、実に貴重なものだったのです。

 窯業界では粒度分布で、粘土分が70%以上のものを、粘土と呼んでます。シルト50%では固まらないし、コロイドが多すぎても成形出来ないらしい。
 ちなみに備前土は、0.002㎜以下が30%以上もある為、手触りがきめ細かく感じられます。荒いもぐさ土を触っていて備前土を触ると、ゴムのように感じますが、これは、成分にはさほど差はないのですが、細かい粒子がたくさん含まれていたからなのです。
 
 粘土は、その成分と粒度分布を調べると、だいたいのことが分かります。
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by ogawagama | 2008-12-24 11:25 | 53 土の粒度

52 ハタキ土

 土味にこだわり始めると、必ず辿り着くのが「ハタキ土」。

 一般の製土は、30種類以上の粘土をブレンドし、アク、不純物を簡単に取り除くために、水簸を行い、すぐにそのまま使えるように、真空土練機で練り上げた実に合理的なものです。しかし、こういった製土が出回り始めたのはごく最近であり、それ以前はどうしていたのでしょうか。
 
 もちろん、自分で掘りに行き、自分でつくるしかありません。
 
 しかし、山から掘り出してきた土の多くは、そのままでは使えません。土の中に、アルカリなどのアク、不純物が入っており、これらが過剰にあると、焼傷が出易くなります。これを防ぐ為には、3年以上空気に触れさせ、雨風を当て、風化を促すしかありません。これを、「サラシ」といいます。そして、乾いた土を木槌で細かく砕き、30~60目の篩を通し、水を加え、足で踏んで練り上げます。素足で踏むので、夏場は冷たくて気持ちが良いのですが、案外重労働で、しばらくすると全身汗だらけとなり、顔や上半身から汗がぽとぽとと垂れ落ちます。私も備前の修業時代はよくしていました。しかし、冬場の土踏みは、氷水に足をつけるようなもので...。
 
 こうして均一に混ぜ合わさり、粘りの出た粘土は、乾燥しないようにビニール袋を2重にして保存します。これを「寝かし」といいます。このように、手間をかけてゆっくりつくられた粘土は、真空土練機で一瞬にして練り上げた土と明らかに違います。特に、ロクロで大物をつくる時に実感できます。成形し易く、言うことを聞いてくれるものです。

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   ①「木槌で砕き、フルイ通した原土で         ②「まず手で混ぜ、次いで足で
      土手を作り、真中に水を入れる」           踏み混ぜていく」

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    ③「何度も踏み、                  ④「馬蹄型にまとめ、乾かす。                    混ぜられた土」                          この後、袋づめし3年寝かせる」
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by ogawagama | 2008-12-24 10:57 | 52 ハタキ土

51 土の風化

 同じ粘土でも、よく風化した粘土は成形し易いだけでなく、焼成においても、粘土中の各成分の反応がよく進んで、均一にガラス化し、異常な膨張や収縮が少なくなるので、焼傷が出にくい。
 
 しかし、風化しているかどうかは見た目では分からないものです。土の風化の度合いは、例えば、北向きの場所と南向きのところでも違ってきます。北向きの山から流れて堆積した土は、日陰であるために風化があまり進んでないので、焼いた時に欠点が多く出ます。これに対して、南向きの陽の当たる場所から流れて溜まった粘土は、風化がよく進んでいるので、陶土としての欠点が少ないと言えます。

 私は、粘土探しの時、国土地理院発行の5万分の1の地形図を見、この考えを必ず参考にしますし、鉱山で粘土を掘る時も、手掘りを基本とするのはこの為です。そして、粘土を「サラス」年数も土の風化度合いが基準となります。従って、気長に付き合えば、どんな土も、このサラシを長くすることによって、必ず使える土に変えられます。
 
 「土に良し悪しはない。土のクセを呑み込んで使えば、それぞれの向きに使いこなせるもの」半泥子の口癖が、ふと頭に浮かんできました。
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by ogawagama | 2008-12-24 10:33 | 51 土の風化

50 土の結晶

 私たち陶工が、望む土とはどんなものでしょう。

 産業的には30種類以上の粘土をブレンドすることで、安定した可塑性良好、収縮率15%以内、焼キズが少なく、SK30前後の耐火度に調性し、科学の力を駆使し、鉄分、アルカリ分等の不純物を取り除き、焼傷の出ない良質な粘土が、年間100万トン以上量産されています。
 しかし、このような優等生には何か物足りなさを感じてしまいます。

 本来、山から取り出されたままの土には、それぞれしっかり個性があります。厚ぼったいけど、掌にのせると案外軽く、「ざんぐり」としたもぐさ土。柔らかく、温かさを持つ萩土。素朴な農夫、時に、野武士のような唐津土。原土を触ってみると、土が生きていることを実感できるものです。
 
 なぜ、成分的にさほど差はないのに、原土と製土には違いがあるのでしょうか。

 その答えは、粘土粒子の原子レベルまで見ると分かります。一般の製土は、それぞれの用途によりブレンドされたものですが、トロミルで何時間も擦り潰してつくられます。それぞれの個性がなくなるだけでなく、実は、それぞれが持つ、美しいビルディングのような結晶構造が壊されていたからなのです。
 
 小川窯では、基本手掘りで採取した土を、3年以上空気に触れさせ、雨風にさらし、風化を促し、必ず単味で優しく撹拌するだけの製法です。「さらす」ことにより、カオリナイト鉱物(これが多い土がいわゆる良い土)が増え、トロミルを使わないことで、土の結晶も壊されない為、土がそのまま生きているのです。電子顕微鏡で見ると、この違いがはっきり分かります。

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                上:「六角板状のカオリナイト結晶」
                下:パイプ状のハロサイト結晶
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by ogawagama | 2008-12-24 10:15 | 50 土の結晶

49 土の違い

 やきものの原料の基である花崗岩、地質学者は、81に分類している程、種類は多いが、大雑把に言うと、長石、珪石、雲母の3つから成った石のことです。
 
 このうちの長石が、その場で風化したものがカオリン。従って、粒子は粗く、粘りはなく、有機物、鉄分などの不純物が含まれない。少し流されて積もったものが蛙目粘土。従って、粒子はまだ粗く、珪石粒を含んだままだが、粘りはあり、有機物、鉄分はまだ少なく白い。更に流され積ったのが、木節粘土。従って、粒子は細かく、珪石粒もなくなり、粘りがかなりあるが、有機物、鉄分など、かなり入り込む為、有色となる。これが、土の一般的な説明ですが、良い土悪い土の話になると、触ってなめて(基本は舌触りが良く、味がないものが良い)焼いてみるしかない。
 
 その結果、これは焼締、これは志野、これは織部に良い土として使い、分けている訳だが、この違いは化学分析して分かるものではない。成分的には数%の違いがあるだけで、同じ土なのだから。肉の旨いところ、まずいところを分析しても、結果は同じ。ところが食べてみると違う。これと同じである。
 
 とにかく、たくさんの土を使ってみることです。中でも、良い土に触ること。たくさんの土を使わなければ、自分が今手にしている粘土が、何に良いのか、一生涯分からないことでしょう。
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by ogawagama | 2008-12-24 09:29 | 49 土の違い

48 土の個性

 「土は生きている。生きているから個性がある。土は自らの個性にしたがって、自らの形を型づくるもの。志野の土は志野の土であって、織部の土は織部の土である。決して調合して出来るものではない。」
 加藤唐九郎の言葉である。

 自ら山に入り、土を採り、精製した人であれば、この言葉の意味が理解できよう。

 私も、それぞれの土が持っている個性を引き出すのが、作家の大切な仕事だと考えている。その為にも、土は混ぜないで使いたい。10%混ぜれば10%個性を失い、20%混ぜれば20%個性を失うものです。使う人間側の都合で、混合し、使い易くする前に、自然が何億年という時間をかけて創りあげた土の存在そのものを尊重し、これをどうしたら生かせるのかの、土づくり、成形法、焼成を考えることが、本来の陶工の仕事のはず。
 確かに手間と時間はかかるでしょうが、こうして出来た作品は、必ず、見る人に何かを感じさせるものとなることでしょう。

 江戸時代中期に活躍した陶工尾形乾山は、「この地上にある土で、やきものにならないものはない」という有名な言葉を残していますが、私たちの周りには、様々な種類の土や石がありますが、それぞれの特徴をつかめば、確かに乾山の言う通りとなるでしょう。凡人には難しいが、一流の陶工は、どんな素材も見事に使いこなせるのであろう。
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by ogawagama | 2008-12-21 16:56 | 48 土の個性

47 良質な土

 地球の表面では、毎日、岩石が土に風化され、その土が変質させられて、膨大な量の粘土が今も絶えずつくられ続けています。しかし、これが、どこかに貯蔵されなくては、だだっ広い海へチョボチョボと流されるだけです。その上、海に堆積しては、基本的には、火に弱くて、陶土としては使えません。

 では、どうしたら良質の粘土がつくられるのでしょうか?答えは湖です。

 現在は、日本の国土の1%しか湖はありませんが、今から300~200万年前は、7%も湖がありました。仮に、1年に1㎝ずつ溜まったとしても、国土の7%ですから、ものすごい量の粘土がつくられていたわけです。
 確かに昔は、陶土なんて無限にあると考えられていました。それが、10年程前からは、「あと何年分しかないよ」と、各鉱山が言い始めました。まずは、各地の小規模な粘土鉱山が閉鎖され、最近は、日本の窯業の粘土を支え続けてきた大規模な、伊賀、瀬戸、美濃までも、閉鎖されてきています。

 そこで粘土業界は、工事現場から出た残土としての粘土や、海外の原料等、30種類以上の粘土をブレンドし、唐津土、萩土、備前土、信楽土、もぐさ土と、名前をつけ、製産しています。決して本物ではありません。ただ、成分が同じというだけなのです。悲しいけれど、これが一般の原料屋の現実です。
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by ogawagama | 2008-12-21 16:23 | 47 良質な土