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昔は窯場の職人のことを「窯ぐれ」と言った。全国の窯場を渡り歩き、今、尚、陶工、原料屋として、昔ながらの窯場の知識、技術を唯一引き継ぐ小川哲央の随筆をお楽しみ下さい。 (2012年3月改訂しました)


by ogawagama

20 釉薬の調合

 釉薬の調合は、いろんな原料を混ぜ合わせるより、できる限り単純な方が良い。例えば、絵具の色は各々はきれいだが、混ぜ合わせると、すべて灰色になってしまうのと同じです。
 灰だけのビードロ釉、長石だけの志野釉、灰6長石4の黄瀬戸釉、灰7長石3銅5%の織部釉、白絵土だけの白化粧土、鬼板7灰3の瀬戸黒釉など。
 
 しかし、その為には、質の良い原料を求めなければいけません。その際、それぞれの原料の、基となる結晶構造のあり方まで知っておくべきです。自然が作り出した鉱物は、それぞれが違った型の美しいビルディングのような結晶構造を持っています。(電子顕微鏡3000倍ではっきり見られます)これを安易に機械で擦り潰してはいけません。石臼で砕くことにより、結晶が壊れず、そのまま小さくなる為、自然で深みのある釉調となります。すり潰しては、ペタッという感じの人工的な固い釉調となってしまいます。
 
 また、素材の特徴を十分吟味し、それぞれを生かす調合でなければなりません。いろんなものを入れすぎては、原料本来の個性がなくなってしまいます。釉薬の調合は、本来秘伝でしょうが、私は誰にでも公開します。なぜならば、その原料のほとんどが、天然のものであり、精製方法、使い方、焼成条件で大きく変わる為、誰一人同じ焼きものにならないからです。これが、天然原料合わせの釉薬の特徴です。
 また、自分で釉薬を調合する場合に使うポットミルは、5~8時間回すことと、陶芸本には書いてありますが、原料によって全く異なりますので気をつけて下さい。
 
 それぞれの結晶構造を壊さず、混ぜ合わす時間を各々で見つけて下さい。当然、天候にも影響されますのでご用心を。
# by ogawagama | 2008-12-19 14:14 | 20 釉薬の調合

19 灰釉

 昔の生活には灰が身近にありました。冬の暖をとることも、風呂を焚くことも、料理の煮炊きにも使われていました。また、畑の堆肥としても欠かせません。わらび、ぜんまい等の、アク抜きにも使っていました。このように、日常生活のいたるところで活用され、陶工も、ほとんどが灰釉を用いていました。
 近代に入り、安定した石灰石、タルクが用いられるようになり、急に使われなくなりましたが、ヨーロッパ、アメリカから陶芸の勉強にくる人たちは皆、灰釉が素晴らしいと言います。
 なぜでしょう。
 
灰にはいろんな不純物が含まれています。釉薬にとって、この不純物が大切な役割をしてくれます。例えば灰には、リン酸が3%前後入っていますが、釉中にリン酸が0.5%以上存在すると、釉に柔らかさが出てきます。他の不純物も、釉に深み厚みを与えてくれ、何故だか冷たいはずの陶器が、温かく感じられます。しかし現代の我々の回りには、量産された合理的な化学製品が多すぎます。これらのものは、無機質で冷たく、人間を疲れさせてしまいます。
 
逆に、灰釉を使ったものは、人の心を和らげてくれます。人間には五感があり、本能的には自然のものを使いたいと思うのでしょう。せめて、毎日手に取るものくらいは、自然のものを使いたいものです。
 
自然のものには、必ず不純物が含まれています。これが、かえって、作品に魅力を与えてくれるものです。決して、この不純物を排除する方向のやきものづくりはしたくないものです。自然がつくり出したものにムダなものは何一つありません。
# by ogawagama | 2008-12-11 11:41 | 19 灰釉

18 実際の科学

 土を焼いて割ってみて、表面と中が同じであれば、しっかり溶けている証拠。表面と中身が違えば表面が溶け始めた頃。つまり、やきものは必ず表面から溶けていくものなのです。釉をかけなくても素地がしっかり焼けていれば、水は漏らない。これを利用したのが、備前、常滑、信楽、伊賀、丹波、越前焼。それぞれの土に適した温度で、しっかり焼き締めています。
 
 これら焼き締め陶の景色の一つに、ビードロがあります。
 一般に松灰は1250℃あれば溶けると、どの本にも記されていますが、実際は違います。灰は成分が複雑なので、分かり易い例として、亜鉛粉末を使ってみます。融点419.4℃沸点907℃。これを美濃の土の上に置いて1300℃で焼いてみます。1300℃も上げれば全てガスとなり何も残らないはず。しかし、実際にやってみると、半分は溶け、釉状となっていますが、半分程は、ガサガサのまま残っている。前者が机上の学問で、後者が実際の学問です。
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           「松灰を耐火度の強い          「松灰を耐火度の弱い
           美濃土にぬったピース」         信楽土にぬったピース」

 灰も同じで、火を受け入れないような美濃の強い土では、ガサガサ残り、美しいビードロにならない。よく観察してみると、灰は表面から溶けるのでなく、ボディーと接触した所から溶けています。つまり、ボディーが溶け始めないと、灰は溶けないのです。従って、土の耐火度が低ければ、薪窯で美しいビードロとなりますが、高ければ、ガサガサ残ってしまう。決して温度ではなく、土との相性なのです。美濃では、このことを経験の上から知って、焼き締めではなく、釉ものを発展させてきたのです。
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「各灰の実験」(1230℃RF)
上段より 1段目 ベースが耐火度の強い美濃土 (左より)土灰 栗皮 くぬぎ 樫
      2段目      〃                  松 柞 ナラ ひのき 
     
      3段目 ベースが耐火度の弱い信楽土      土灰 栗皮 くぬぎ 樫
      4段目      〃                  松 柞 ナラ ひのき 
# by ogawagama | 2008-12-11 11:18 | 18 実際の科学

17 カオリン

 カオリンは中国の高嶺(かおりん)山で多く産出する為、この名がつけられていますが、このカオリンの層は、日本では、レンズ状に「ボコッ、ボコッ」とある程度。火成岩がそのままの位置で風化したもので、真白なのですぐ分かりますが、少量しか採れません。手掘りで気長に集めています。
 良く風化しているので多少の粘りはありますが、成形できる程の可塑性ではない為、素地との馴染みがよく、剥がれにくいこともあり、化粧土として使います。
 カオリンは磁土とも書かれますが、単味では可塑性は小さく1300℃でも焼き固まらないので、磁器土として使うのではなく、やはり、釉薬の原料として使います。なぜ素地に使えないかと言うと、風化がそれほど進んでいませんし、結晶構造もハロイサイトが主で、粘りがありません。粘土はカオリナイトが主です。しかし、最近使われているニュージーランドカオリンは、風化が進んでおり、メタハロサイトが主の為、単味でも成形できますが、残念ながら釉薬との相性が良くありません。
 
 昔の国産のカオリンは、真白で本当に美しく、使い易かったのですが、良質のものは採り尽くされました。今のものは見た目が少しグレー味がかった白ですが、焼くと真白になるので問題ありません。現在は、安定した海外のものが10種類以上安く簡単に手に入る為、皆はそちらを使いますが、あくまで私は、国産の手掘りカオリンを使います。
 何かいいんです。こちらの方が...焼き上がりが柔らかく、美濃の土にはやはり美濃の原料が合います。
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# by ogawagama | 2008-12-11 10:20 | 17 カオリン

16 灰づくり

 小川窯の釉薬は、ほとんどが灰立てです。なぜこの灰立てにこだわるのか。

 一般の釉薬は石灰立て。成分が一定しており扱い易く、安い。しかし、鉱物の石灰と、灰の石灰は結晶構造が全く違います。灰の石灰は、他の原料と溶け合い易く、釉調がとても美しい利点があります。しかし、きれいな結晶構造の灰を得ることはとても難しい。特に難しいのが、ワラ灰。ワラを焼く時は、低温で炭素を残すことが肝心。炭素を残すことにより、非晶質の反応のよい珪酸がつくられる。非晶質のものは、アク抜きも簡単で、他の灰づくりも同じでゆっくり燃やすことが原則。急いで雑に燃やせば、その後のアク抜きも、大変となるだけでなく、釉薬として用いた場合も、反応性が悪くなる。
 
 また、生木を燃やすと、炭酸塩の結晶の形とならず、アクが抜けませんし、高温で焼くと、アルカリが固定化し、これまたアク抜きが難しくなる。灰とは実にデリケートなものです。
 
 同じ灰も、焼成温度、焼き方によって、結晶構造が変わり、その性質も違ってきてしまうのです。昔から灰は年寄りが燃やしたものが良いと言われますが、その通りなのです。丁寧に気長に、灰は燃やさなければなりません。50年近く研究して来ましたが、灰づくりは本当に難しい。
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            「アク抜き」                    「天日干し」

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# by ogawagama | 2008-12-11 10:05 | 16 灰づくり